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大衆性を生かしたテーマで、
映画版としてあるべき姿で登場

ブライアン・ロウリー
2007/12/25

●製作:ジェームズ・L・ブルックス、マット・グローニング、アル・ジーン、マイク・スカリー、リチャードサカイ 共同製作:ジェイ・クレックナー アニメーション共同製作:クレイグ・ソスト 監督:デイヴィッド・シルヴァーマン 音楽:ハンス・ジマー
●出演(声):ダン・カステラネタジュリー・カヴナー、ナンシー・カートライト、イヤードリー・スミス、ハンク・アザリア、ハリー・シェアラー
●2007年/アメリカ/86分/12月15日より日本公開
●20世紀フォックス

 18年、400話にものぼるエピソードをもって、「シンプソンズ」は、幅広い層の観客予備軍を育成してきたといえる。その幅広さは、いまだに「シンプソンズ」を見続けている視聴者から始まり、かつて番組を見ていた視聴者、そして今はもう見なくなったが、その代わりに、その子供たちが見始めているという視聴者ということになる。問題は、コマーシャルの時間を我慢すれば容易に見ることができ、且つ、フォックスが、これでもかというほどの宣伝をテレビオンエアしている中で、観客予備軍の何人がお金を払ってまで、この映画を見ようとするかということなのだと思う。でも、幸せなことに、長い期間をかけて練られてきた本作自体には、見なければいけないと思わせるほどの魅力があり、フォックスの神がかり的な宣伝キャンペーン(セブン・イレブンが、クイック・イー・マートになる? ほんと天才的)によって、以前同様、フォックスのお財布をたっぷり満タンにするだけの興味は喚起できそうである。たとえそれが、ドーナッツ会社とのタイアップから生まれるお金でも良し、としなければなのである。

ただで見られるものにお金を払いたくなるその理由

 簡単に言えば、もし誰かが「シンプソンズ」の映画を作ろうとするなら、まさに今回の映画こそ、あるべき姿に近いと言える、ということであろう——巧妙であり、不遜であり、同時に風刺も効いていて、22分のエピソードに比べおよそ四倍もの長さの物語を持続することも可能にするプロットを完備している(まあ、やっとのことではあるが)。

 見た目だけのことを言っても、この映画が成し遂げたことは決して小さいとはいえない。テレビ番組(特に、コメディー・アニメの場合)を劇場版の規模と大きさに拡大するということ自体、これまでは難問だとされてきた——『劇場版ビーバス&バットヘッドDO AMERICA』や『サウスパーク/無修正映画版』などは下品な笑いで、これを乗り切っているものの、結果は失敗。まあ、他の作品もおして知るべしの状況である。

 しかしながら、「シンプソンズ」ほどの大衆性が他の作品にはなかった、ということも事実で、この作品にクレジットされている11人の脚本家チーム(その誰もが、テレビ版のプロデューサーをつとめている)が、視聴者の好む抜け目ない飾り付けを大量に投入しているということも他の作品にはない。映画の冒頭、なぜ「テレビでただで見ることのできるものに」お金を払うのかということを直接言い切ることなどは、かなり大胆である。その調子のまま、脚本家たちが作り上げた物語は、とても楽しそうに、飼い主であるフォックスの手に噛み付き、ディズニーを悪の帝国と言い切り、ついには追跡していた人物を捕まえたことを喜ぶアメリカ政府の職員たちを能無しのピエロと切って捨てて見せてもいる。

父と息子の長年の確執が家族をバラバラに

 環境問題のテーマにも取り組む物語の筋は、地元の湖をおそう環境破壊を縦糸に、家族を愛してやまないホーマー(10以上の違った声を本作に提供しているダン・カステラネタ)のうっかりが原因で巻き起こるとんでもない事件、それによって危険にさらされるスプリングフィールドの町という具合に進んでいく。

 まったく情というものを持ち合わせない役人ラス・カーギル(A・ブルックスとクレジットされているが、アルバート・ブルックスのことである)の下、環境保護局は、その地域を隔離災害地域であると宣言し、それが引き金となって、地元民たちは文字通り、松明をたいてシンプソン家に向かってデモ行進を始め、一家全員が家から出られなくなってしまう。残された道は、ホーマーが町を救う方法を見つけ出すこと。その過程の中で、彼は妻マージ(ジュリー・カブナー)、そして息子バート(ナンシー・カートライト)の目の前で名誉を回復しようとする。しかし、長年父に無視され続けてきたと思い込んでいるバートは、この機会にと、熱くキリスト教伝道の道を進む隣人ネッド・ファンダーズ(ハリー・シェアラー)の元に身を寄せてしまう。

「ザ・シンプソンズ」らしい小さなギャグに大笑い

 このほかにも物語を肉付けするさまざまな逸話が満載。ホーマーがブタを養子にとるであろうという、なんとも怪しげな予言からはじまり、果ては娘のリサ(ヤードリー・スミス)がアイルランド人の若いギタリストにのぼせ上がり、彼と環境主義に目覚めてしまうというものまで、話題に事欠かない。

 そんな逸話が満載であるにもかかわらず、映画自体は折々中だるみする部分が目に付く。ではあるが、小さな、ぽんと投げ入れたようなギャグに大笑いさせられるのは、いつもの「ザ・シンプソンズ」らしいところ。トム・ハンクスが真剣に彼自身になりきってちょい役で登場していたり、『タイタニック』からいただいたセリフが出て来たり、もう絶対に話題になること請け合いのバートのスケボーシーン——アニメで描かれているとはいえ、バートのあそこが一瞬ではあるがばっちりと見えてしまっている——であったりと、やりたい放題である(PG‐13というレーティングであるにもかかわらず、今回のユーモアのセンスは、平均的なテレビ版エピソードのそれよりも下品であるという感じはしない)。

マーケットに対する挑戦は一応合格

 技術的には、テレビ版の様子を大幅に変更することなく、広くなったスクリーンを効果的に活用している。時には、典型的なテレビアニメ制作の手法を大きく超え、劇場向けスクリーンでこそという規模のシーンもCGを活用して用意されている。

 『ザ・シンプソンズMOVIE』そのものが、マーケットに対する挑戦であることは明らかであるが、これまでの積み重ねもあって、フォックスは、その任をしっかりと全うしているように思える。これまで視聴者の心をしっかりとつかんできた魅力を損なわないように、シリーズそのものを拡大するということに関しても、プロデューサー陣は、18歳の子供たちが外に出て、とらえどころがなく恐ろしげな(劇場の)世界に飛び込む準備ができているということを証明したことで、一応試験には合格したということになるのであろう。

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