『この自由な世界で』
●原題:IT’S A FREE WORLD…/2007年/英、伊、独、西/2008年8月16日(土)から日本公開
●配給:シネカノン
●配給:シネカノン

(c) Sixteen Films Ltd, BIM Distribuzione, EMC GmbH and Tornasol Films S.A.
“搾取される移民たちによる労働力”という、激論を生むこと必至の話題が、監督ケン・ローチ、そして脚本家ポール・ラヴァティの共同作業最新作となる本作の背景を織り成している(2人が共同作業をした前作は『麦の穂をゆらす風』である)。強く、しっかりとしたペースで語られるロンドンを舞台にした物語は、搾取される犠牲者の視線ではなく、搾取する側になってしまいかねない人物の視線で語られ、ほとんど人々が気にも留めないような、つながりと連鎖反応を照らし出していく。人間ドラマが前面に押し出され、過去の2人の作品よりも、ずっと自然に数々の問題提議と議論が練りこまれている。現実を映し出すカメラ、今後、間違いなくスターになるであろう役者をそろえた説得力のある配役も手伝い、品質の高いアートハウス作品として、国際的にも受け入れられるはずである。
見る人が溶けてしまいそうな笑顔のヒロイン
サッチャー支持時代のイギリスに育ったアンジー(キルストン・ウェアリング)は、少々気の短いロンドン、イーストエンドの住人であり、自分の利益を追求することには長けている。折しも、法的に問題がないケースばかりではない、東欧からやってくる労働者たちを斡旋し、目先の利益ばかりを追い求める職業紹介所を首になってしまったアンジーは、思い余って自ら紹介所を開業することを思いつく。アンジーが、ひそかに地元の工場やパブを回り、顧客や労働者たちを大々的に募集し始める一方で、彼女よりずっと注意深いルームメートのローズ(ジュリエット・エリス)は、ウェブサイトを構築し、高尚な会社綱領を掲げてアンジーの手助けをする。
30代で髪をブロンドに染め、見る人が溶けてしまいそうな笑顔が売り物のアンジーは、欲しいものを手に入れるためにはセックスアピールを使うことも恐れていない。工場長のデレック(フランク・ギルフーリー)は、彼女の行き過ぎた行為を警告するが、アンジーは、もう1人の顧客であり、同じようなことをしても単なる通告を受けただけで処罰されなかった人がいると話すトニーの言うことを聞いてしまう。トニーは、さらに田舎の方に、そういった労働者たちに偽のパスポートを作ってくれる人物がいるということを、彼女に吹き込む。
30代で髪をブロンドに染め、見る人が溶けてしまいそうな笑顔が売り物のアンジーは、欲しいものを手に入れるためにはセックスアピールを使うことも恐れていない。工場長のデレック(フランク・ギルフーリー)は、彼女の行き過ぎた行為を警告するが、アンジーは、もう1人の顧客であり、同じようなことをしても単なる通告を受けただけで処罰されなかった人がいると話すトニーの言うことを聞いてしまう。トニーは、さらに田舎の方に、そういった労働者たちに偽のパスポートを作ってくれる人物がいるということを、彼女に吹き込む。
違法行為に手を貸す娘を恥じる組合労働員の父
同じ頃、家族の問題が、アンジーの行く手を阻もうとする。両親に預けていた11歳になる息子ジェイミー(ジョー・シフリート)が、クラスメイトをしたたか殴ってしまうという事件が起きたのだ。また、彼女の愛する父ジェフ(コリン・コフリン)、彼女とは違った政治的、経済的な時代を生き抜き、誇り高き組合労働員である彼は、彼女が時折そうした違法行為に手を貸していることを知り、恥ずべきことだと決めつけてくる。
バイクにまたがり、仕事場を行き来するアンジーは、ポーランドからやってきた若くハンサムな労働者カロル(レズワフ・ジュリック)とベッドの中でいい仲になったりもする。彼は、うらぶれたトレーラー・ハウスに住んでいるのだが、このおよそ望ましいとはいえない住環境が、クライマックスのどんでん返しを生む伏線にもなっている。
バイクにまたがり、仕事場を行き来するアンジーは、ポーランドからやってきた若くハンサムな労働者カロル(レズワフ・ジュリック)とベッドの中でいい仲になったりもする。彼は、うらぶれたトレーラー・ハウスに住んでいるのだが、このおよそ望ましいとはいえない住環境が、クライマックスのどんでん返しを生む伏線にもなっている。
「人々にチャンスを与えている」と功利主義を正当化
その後、アンジーとローズは、セックスでいい汗を流すことがストレスの軽減につながると決めてかかり、契約している労働者の中からハンサムな男を選んで呼び出し始める。最初、そういったシーンは笑いを誘うのだが、女性たちがアンジーの以前の雇い主が映画の冒頭で見せているのと同じように、性的に労働者たちを搾取していることに無頓着であることがはっきりしてくるにつれ、そんな笑いも消えうせてしまう。
魅力的で人好きもするアンジーは、物語の冒頭から観客にとっては感情移入しやすく、彼女の行動に加担しているような気分になってしまう。しかし、彼女の理屈が、だんだんと怖いものになっていくにつれ、観客は自らの価値観にさえ疑いを持つようにしむけられる。簡単にお金を稼げること、あぶく銭にとりつかれたアンジーは、ますますこの機に便乗しようという功利主義に陥っていく。必死で仕事口を求める移民たちから巻き上げるだけ巻き上げようとする新しいやり方を考えついてしまったりもする。「人々にチャンスを与えているんだ」。彼女はそう言って、自分を正当化する。
魅力的で人好きもするアンジーは、物語の冒頭から観客にとっては感情移入しやすく、彼女の行動に加担しているような気分になってしまう。しかし、彼女の理屈が、だんだんと怖いものになっていくにつれ、観客は自らの価値観にさえ疑いを持つようにしむけられる。簡単にお金を稼げること、あぶく銭にとりつかれたアンジーは、ますますこの機に便乗しようという功利主義に陥っていく。必死で仕事口を求める移民たちから巻き上げるだけ巻き上げようとする新しいやり方を考えついてしまったりもする。「人々にチャンスを与えているんだ」。彼女はそう言って、自分を正当化する。
スクリーンを焼き焦がしてしまいそうな魅力の新人ウェアリング
脚本は、アンジーに対して道徳的な判断を下そうとしていない。むしろ、彼女が活動するシステムの冷酷さや偽善的な部分を批判する。ひとつだけ、小さなケチをつけるとすれば、ローズに対する掘り下げが十分でないというところだろう。彼女は、あまり内面を見せないアンジーの意志を代弁していることだけに始終しているように見えてしまっている。
新人から素晴らしい演技を引き出すことで知られる監督ローチは、ここでも何人かワクワクするような新しい才能を紹介している。何かに駆り立てられ、情熱的なアンジーを演じるウェアリングは、人生初めての映画出演で爆発するような魅力を見せている。ほぼ全編出ずっぱりの彼女は、その魅力でスクリーンを焼き焦がしてしまいそうだ。同情の目を一身に集め、力強い印象のカロルを演じたジュリックは、もうひとり、この作品で新しく見出されるべき才能であろう。その他の俳優たちも見事な演技を見せており、アンジーの友人でパブのオーナーを演じるレイモンド・マーンズが、この映画のユーモアの部分を一手に引き受けてくれている。
新人から素晴らしい演技を引き出すことで知られる監督ローチは、ここでも何人かワクワクするような新しい才能を紹介している。何かに駆り立てられ、情熱的なアンジーを演じるウェアリングは、人生初めての映画出演で爆発するような魅力を見せている。ほぼ全編出ずっぱりの彼女は、その魅力でスクリーンを焼き焦がしてしまいそうだ。同情の目を一身に集め、力強い印象のカロルを演じたジュリックは、もうひとり、この作品で新しく見出されるべき才能であろう。その他の俳優たちも見事な演技を見せており、アンジーの友人でパブのオーナーを演じるレイモンド・マーンズが、この映画のユーモアの部分を一手に引き受けてくれている。
ドキュメンタリーのような緊張感を与えるローチ作品の常連たち
ナイジェル・ウィロウビーのざらつきがあり、青を基調としたカメラは、自然光をとてもうまく使っており、その他、編集のジョナサン・モリス、そしてプロダクション・デザイナーのファーガス・クレッグなどローチ作品常連も、作品にドキュメンタリーのような緊張感を与える仕事を残している。
ヴェネチア国際映画祭で上映されたプリントの音声は、少しこもって聞こえた。時折ではあるが、労働者やコクニー地方の登場人物の話すアクセントは、まったく持って解読不能で、アメリカ側での公開時には字幕版を用意したほうがよいのではないかと思われた。イギリスでは、この作品、劇場公開の前にチャンネル4でテレビ放映されている。
ヴェネチア国際映画祭で上映されたプリントの音声は、少しこもって聞こえた。時折ではあるが、労働者やコクニー地方の登場人物の話すアクセントは、まったく持って解読不能で、アメリカ側での公開時には字幕版を用意したほうがよいのではないかと思われた。イギリスでは、この作品、劇場公開の前にチャンネル4でテレビ放映されている。


































