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栄養価ゼロだが、甘みたっぷりで
拒むに拒めない綿菓子のよう

トッド・マッカーシー
2008/06/28

●原題:Speed Racer/2008年/アメリカ/135分/2008年7月5日(土)より日本公開
●配給:ワーナー・ブラザース

© 2008 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
© 2008 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
 60年代に子どもたちが大喜びした日本製アニメーション、そのオリジナルに忠実に描かれた本作が、極彩色の蛍光カラーを身にまとい、物理の法則もまったく無視しながら、超マンガ的なアクションものとして40年後の世界にド派手に再登場し、一気に文化的な大注目を集めている。ただ、悪と正義を描くにしても、“正義の主人公には白い車を運転させましょう”ということ止まりでは如何ともしがたい。『マトリックス』シリーズ以来、初めてアンディラリー・ウォシャウスキー兄弟がメガホンを取るこの作品、ターゲットにしている観客層は純粋にファミリー層で、大きな音とビデオ映像上のアクション描写に始終しており、高度な技術以外にはまったく特筆すべきところの無い、あいまいなものとなってしまっている。別の言い方をすれば、まったく栄養価など無いが、甘みたっぷりで、その上、見た目が良いので若い観客が拒むに拒めない、ただの綿菓子のような作品であるということである。とはいえ、このワーナー・ブラザース公開作品を重要なヒット作品にしようと期待する一般観客は世界中に存在し、アイマックスから、その後の家庭での観賞用セールスまで、若年層のリピート鑑賞にも支えられ、全てのフォーマットで余分なお金を稼ぎ出すものと思われる。

子どもたちには、しっかりなじんだものに
大人にとっては、映画的な玉突き事故

 練りこみが足りていない貧弱な物語、ゆるく、機能だけしか考えていないセリフ、家族の団結だけに対する献身的な愛、そして、どこかインチキくさく、されどとても高価な、合成用グリーン・スクリーンに描かれたCGイメージ。本作を見て思い出すのは、他に例を挙げるまでもなく、ロバート・ロドリゲスの『スパイキッズ』シリーズだけである。それらの作品と同様に、この新作も、何でも喜ぶお気楽な観客には何とか楽しみを与えられそうだが、ちょっとした厳しい目にさらされれば、たちどころにアラだらけという代物である。その上、なぜプロデューサーたちが若年層を狙った映画を作りながら、本編が2時間を越えるものにしたのか、謎は深まるばかりである。

 とは言うものの、作品全体を通せば、そういったターゲット層がまったく楽しめないとか、気をそがれてしまうと言っているわけではない。日本製アニメの視覚的な美をビデオゲームのダイナミズムで撮り上げた、このつやつやピカピカで、特大の金メッキのような作品は、元気のいいキャストが参加していることもあり、子どもたちには、しっかりなじんだものになるだろう。しかしながら、その他の人々にとっては、この作品、映画的な玉突き事故くらいにしか意味がない。

時制をあっちこっち行き来する冒頭シーン
一家のゴタゴタなどでスピードを緩めるアクション

 ウォシャウスキー兄弟の脚本には、軽いひねりや、隠された正体、そしてミステリアスな動機といった一連のものが備わっている。同時に、その本線は、利益を追求するだけの企業の金銭主義に対抗する、たった1人の反逆者の正義や純粋さといったものをしっかりと描き出している。前半部分の特性を体現するのは、奇妙な名前を付けられたレーサー一家ひとりひとりである。彼らは、岩のように堅いカー・デザイナーのパパ(ジョン・グッドマン)、しっかり者のママ(スーザン・サランドン)、レースに夢中な息子たちのレックス(スコット・ポーター)とスピード(エミール・ハーシュ)、そしてスプリトル(ひと回り小さなグッドマンのそっくりさん、ポリー・リット)である。

 時制をあっちこっちに行き来する冒頭シーンで描かれるのは、ハンサムで颯爽としたレックスが数年前の大事故で死んでしまっているようなことや、それを未だに引きずっているスピードがいること、そして、そんな彼の運転技術は、やけに丁寧な物腰の大物ローヤルトン(ロジャー・アラム)から彼のトップ・ドライバーチームに招かれるほどになっていることなどである。しかし、その招きを断られたローヤルトンは突然、意地悪くなり、スピードにも死んだ兄のように成功する見込みがまったくないと言い出したりする。

ローラー・コースターとスキーの回転競技、
スケートボードの施設を足したようなレース・シーン

 途中、アクションの流れは、レーサー一家のゴタゴタなどで、スピードを緩め、ピット入りしてしまったりしている。その原因は、猿が巻き起こす騒動だったり(いたずらスプリトルの相棒は、まねっこ大好きのチンパンジーなのである)、アジアのレーシング・チーム(このチームのドライバーには、韓国の人気ポップシンガー、Rain(ピ)が扮している。彼がいることで、韓国の興行収入はバッチリか?)やスポーツにおける不正行為の取締官、そしてさまざまな国から集まった悪漢たちが、なんとかスピードを止めようとジタバタとするからである。そして、もうひとつは、謎のマスクマン、レーサーX(マシュー・フォックス)の存在である。彼の正体は果たして、死んだはずのレックスが蘇ったということなのか、それともまったくの別人なのであろうか、それは何とも言えない。

 とは言え、何があってもほぼ全編に渡り、『スピード・レーサー』は動き続けるのである。ゆえに、目のほうは忙しく休む暇もないといった感じになるのだが、いったん停止をかけてみようとする厚かましい観客には、楽しめないものかもしれない。人工コースでクロス・カントリーのラリー風に繰り広げられるレースの様子は、ローラー・コースターとスキーの回転競技とスケートボードの施設を足したような、恐ろしいことになっており、そこで、信じられないような捻りや曲がり方をしたり、4等級の黒ダイヤのようにツルツルの勾配を滑り降りたり、パックリと口を開けた割れ目を飛び越えたり、また、そこには周到に用意された障害物が並んでいたりする。レースに参加する車の中には、まったく違法な尖った鉤などの武器が装備されているものもあり、競争相手をレースから追い出したりする。レース・カーはカーブを滑るように走り、思いっきりハンドルを切って急旋回を決め、空中に飛んだり、頭っからコースに突っ込んだりと、およそ物理的に不可能と思われるやり方でレースを進めていく。

相変わらずの高速で突っ込むが
何がルールで何が危機なのかは不明

 こういったことの全てが、望まれる大スペクタクルを構成し、増幅していることに疑いはない。しかし、それが観客の興奮やサスペンスにつながっているかということ、そうではない。そう感じてしまうのは、ただただ何がルールとなっているのか、そして何がこの純粋に危機的状況を作っているのか、それがまったく分からないという単純な理由からきている。何度も言うが、スピードとそのほかのレーサーたちは、目立ってまずいことが起こることなしに、ただ単に前に進み続けるという目的のためだけに、最悪の衝突や事故を乗り越えて行っているとしか思えない。何度でも言うが、そこにあるのは次々と新しい状況へ、相変わらずの高速で突っ込んでいく姿があるだけで、レースで起きる危機的状況は、どこにも帰結しないのである。

 編集のペースはとても速く、この映画だけで、ハリウッド映画の一続きのショットの長さの平均値をずいぶんと縮めたんじゃないかと思わせる。スタイルの面で言えば、ウォシャウスキー兄弟は、横向きの動きに相当、力を入れたということが言えそうで、まるでベルトコンベアに載せるようにして、大きな顔をスクリーンに出し入れする。これは効果抜群で、真にユニークな方法であるとともに、しっかりと注意をひきつけている。

革新的CGIファンなら、天国にも昇った気持ちに
清潔で魅力的なハーシュ&プラスのオーラを撒き散らすリッチ

 視覚効果の部門に、惜しげもなく経費がつぎ込まれたことは明白で、最新の革新的なCGIに身を浸していたいというむきなら、天国にも昇った気持ちになるであろう。しかしながら、見事に焦点のあった複数の対象物をひとつのフレームに重ねてしまうのは、どう見ても幼稚園児のコラージュ画に見えてしまってしょうがない。最近の『スター・ウォーズ』3作全ての撮影を担当した撮影監督デイヴィッド・タッターサルは、最新のソニーF-23HDカメラから最大の効果を引き出す術を知っていると言え、また全ての技術部門も、はっきりと大成功を収めていると言っていい。ただ、もしマイケル・ジアッチーノの陽気で忙しいスコアが、映画の中で1分でも鳴り止んでいたとしても、その他の音がブンブンとうなり続けていたので、それに気がつくことは不可能かもしれない。

 キャストは、このような種類の作品にしては、概ねいい演技を見せている。もっとも、俳優に求められているのは、警戒しているように見せる演技と車の運転以外にはそれほど多くないということも付け加えておく。『イントゥ・ザ・ワイルド』とは、似ても似つかない作品に出演したハーシュは、ずっと清潔になっているし、タイトルでもある役を魅力的に演じている。彼の忠実な生涯の恋人を演じたリッチも、スクリーンからプラスのオーラをまき散らし、これまでのどの作品よりも魅力的な姿を見せている。グッドマンとサランドンは重鎮としての存在感を見せ、小さなリットも爆竹のように元気がよく、アラムも、ストレートなティム・カリーといった趣で憎んでも憎しみ足りない、魅力たっぷりな悪役を演じて、おいしいところを持っていっている。

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