『丘を越えて』
●日本/114分/2008年5月17日より日本公開
●配給/ゼアリズエンタープライズ=ティ・ジョイ
●配給/ゼアリズエンタープライズ=ティ・ジョイ
都市文化が花開く東京、ボブヘアのモダン・ガール

©「丘を越えて」製作委員会2008
大正十二年(一九二三)の関東大震災は東京を壊滅させたが、復興は思いのほか早く、昭和初年には現在の東京の原型といっていいモダン都市が出現した。
自動車が走り、地下鉄が開通する。デパートが家族連れでにぎわい、ラジオが普及し、流行歌が次々に生まれてゆく。
そんな都市文化が花開いた昭和初期を舞台に、「文藝春秋」を創刊した作家の菊池寛〈西田敏行〉と、その若く美しい秘書(池脇千鶴)、編集部で働く朝鮮の貴族出身の青年(西島秀俊)の三様の生き方を描いてゆく。原作は猪瀬直樹『こころの王国』(文春文庫)。監督は高橋伴明。
新しいモダン都市東京では、女性の社会進出が進んだ。ショップ・ガール、オフィス・ガールが登場した。
池脇千鶴演じる葉子も新時代の息吹きのなかで社会へと飛び出す。樋口一葉が暮したことでも知られる東京の下町、龍泉寺(いまの台東区)の生まれで、子供の頃から日本情緒のなかで育ってきた娘が、髪を流行の断髪(ボブヘア)にし華やかな洋服を着て、文藝春秋に面接を受けに行く。あいにく編集者の枠はなかったが菊池寛の目にとまり、その個人秘書として働くようになる。
のちに菊池寛や川端康成の回想記を書く佐藤みどりをモデルにしている。現在のキャリア・ウーマンの先駆者である。菊池寛に可愛がられ、自家用車に乗せてもらったり、帝国ホテルで食事をしたり、あるいは有名作家に会ったり、モダン都市の新しい波のただなかを生きてゆく。
自動車が走り、地下鉄が開通する。デパートが家族連れでにぎわい、ラジオが普及し、流行歌が次々に生まれてゆく。
そんな都市文化が花開いた昭和初期を舞台に、「文藝春秋」を創刊した作家の菊池寛〈西田敏行〉と、その若く美しい秘書(池脇千鶴)、編集部で働く朝鮮の貴族出身の青年(西島秀俊)の三様の生き方を描いてゆく。原作は猪瀬直樹『こころの王国』(文春文庫)。監督は高橋伴明。
新しいモダン都市東京では、女性の社会進出が進んだ。ショップ・ガール、オフィス・ガールが登場した。
池脇千鶴演じる葉子も新時代の息吹きのなかで社会へと飛び出す。樋口一葉が暮したことでも知られる東京の下町、龍泉寺(いまの台東区)の生まれで、子供の頃から日本情緒のなかで育ってきた娘が、髪を流行の断髪(ボブヘア)にし華やかな洋服を着て、文藝春秋に面接を受けに行く。あいにく編集者の枠はなかったが菊池寛の目にとまり、その個人秘書として働くようになる。
のちに菊池寛や川端康成の回想記を書く佐藤みどりをモデルにしている。現在のキャリア・ウーマンの先駆者である。菊池寛に可愛がられ、自家用車に乗せてもらったり、帝国ホテルで食事をしたり、あるいは有名作家に会ったり、モダン都市の新しい波のただなかを生きてゆく。
服装には無頓着、しわくちゃの十円札
菊池寛が面白い。自家用の運転手付きの車に乗っていながら服装には無頓着。お金にもこだわりがなく、しわくちゃの十円札をポケットから出して惜しみなく人に与える。
「生活第一、芸術第二」という考え方で、芸術至上主義に対し、暮しのほうが大事だと主張する。だから貧乏な作家たちにも援助を惜しまない。そうした、作家であると同時に、良き実業家でもある菊池寛が、若い秘書の目で魅力的に描かれてゆく。
都市文化が花咲いた華やかな時代だが、一方で、貧富の差は厳然としてある。食事も満足に食べられない子供たちがいる。その作文を読んで菊池寛は目をうるませる。しわくちゃの十円札を取り出し、子供たちに送るよう葉子にいう。そんな個人の善意では解決できないほど社会の矛盾が大きくなっているのに。
「生活第一、芸術第二」という考え方で、芸術至上主義に対し、暮しのほうが大事だと主張する。だから貧乏な作家たちにも援助を惜しまない。そうした、作家であると同時に、良き実業家でもある菊池寛が、若い秘書の目で魅力的に描かれてゆく。
都市文化が花咲いた華やかな時代だが、一方で、貧富の差は厳然としてある。食事も満足に食べられない子供たちがいる。その作文を読んで菊池寛は目をうるませる。しわくちゃの十円札を取り出し、子供たちに送るよう葉子にいう。そんな個人の善意では解決できないほど社会の矛盾が大きくなっているのに。
モダン都市の明暗
モダン都市の明暗である。暗い部分を代表するのは、西島秀俊演じる馬海松 という朝鮮の貴族出身の青年。はじめは軽いモダンボーイに見えたものの、葉子が心惹かれ、親しく付き合ううちに、祖国の現状を憂うる真面目な青年であることがわかってくる。こういう人物を入社させているところにも、人間・菊池寛の懐の深さを感じさせる。
葉子は、祖国改革の志を持つ青年に心惹かれながらも、他方、どこかいつまでも子供のような菊池寛の中年男の恋心にも応えようとする。時代の明暗を共に生きようとする思いからなのだろう。
時代は次第に軍国主義が強まり、モダン都市社会は徐々に、窮屈に、息苦しくなってゆく。三人のそれぞれの行く末は——。
タイトルの「丘を越えて」は、古賀政男が作曲し(作詞・島田芳文)、昭和六年(一九三一)に藤山一郎が歌って大ヒットした曲。日本の歌謡曲ではじめて「青春」を謳った曲という。やがては暗い時代に押しつぶされてゆく葉子の青春の象徴になっている。
葉子は、祖国改革の志を持つ青年に心惹かれながらも、他方、どこかいつまでも子供のような菊池寛の中年男の恋心にも応えようとする。時代の明暗を共に生きようとする思いからなのだろう。
時代は次第に軍国主義が強まり、モダン都市社会は徐々に、窮屈に、息苦しくなってゆく。三人のそれぞれの行く末は——。
タイトルの「丘を越えて」は、古賀政男が作曲し(作詞・島田芳文)、昭和六年(一九三一)に藤山一郎が歌って大ヒットした曲。日本の歌謡曲ではじめて「青春」を謳った曲という。やがては暗い時代に押しつぶされてゆく葉子の青春の象徴になっている。









































